人生100年時代、幸福な夫婦関係のための適切な距離とは
夫婦で寝室を別にする「夫婦別寝」が広まっている。現時点では高齢者を中心に広まっているが、若い世代にもこうした考えは受け入れられているようだ。「夫婦別寝」にはどのような背景があり、またそのことが今後何をもたらすのか。戦後日本の結婚や夫婦のあり方について独自の考察を『日本婚活思想史序説』にまとめた筆者が、その背景と意味を読み解く。

夫婦間の距離の問い直し

幸福な夫婦関係のために家庭内別居するという選択肢がいわれるようになって久しい。

 

そもそものキッカケは、定年退職によって夫婦が一緒に過ごす時間が突然増えるとストレスになるというものだった。敷地内に書斎をつくったり、また大きな家庭菜園をつくったり、夫に「仕事」を与えることで定年前と同様の生活のリズムをつくるのが、定年後の夫婦の1つの距離の保ち方だろう。

老後は夫婦そろって…という理想像は、もはや理想ではなくなってきており、そこではそもそも夫婦はプライベートでどれだけ距離をとるかが問題になっているようにも思われる。

これは決して年配のカップルに限った問題ではない。例えば若い女性ライターによる婚活本の1つでは、次のように内心が吐露されている。

「最近、友人の一人があっさりこう言うのを聞いたのです。

『私、結婚しても一緒に住みたくないんだよね。できれば、同じマンションの別の部屋に住むのが理想』

胸のつかえが取れたような気持ちになりました。そう思っているのは、私だけではなかったのだ、とホッとしたのです。」(雨宮まみ『ずっと独身でいるつもり?』2013年)

同じように1985年生まれの社会学者・古市憲寿さんも「玄関を分けたい」と言う。同じマンションの違う部屋に住むくらいがちょうどいいというわけだ。とくに相手が専業主婦で、自分のことを待っている人がいるという状況が気持ち悪い、と(加藤嘉一・古市『頼れない国でどう生きようか』)。

家のソトとウチとを分離し、それぞれに男性と女性を割り当てることで自動的に距離感をとることが、高度成長期以降の日本のモーレツサラリーマン+専業主婦家庭の理念型だとすれば、定年後の高齢夫婦だけではなく、ネガティブには終身雇用に安住できない、ポジティブには働き方が自由化された人々にとっても、夫婦の適切な距離感の問い直しが始まっているのだ。

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